2006年(平成18年)3月22日から6日間、学会に参加のためベニスへ行って来ました。この2年間で3回目の成田〜ミラノ線(日本航空または共同便のアリタリア航空)で、今回も2年前と同じく特典航空券で無料です。3ヶ月前にナポリ、パレルモに行って来たばかりで、またしてもイタリアですので、最近イタリアにはまっている私はルンルンでした。ミラノからベニスまでは列車で約3時間です。
ベニスには2、3回行ったことがありますが、最後に行ったのは新婚旅行でもう20年以上も前です。ベニスはいつもあちこちヨーロッパを回る時の途中でした。列車を中心に考えると、例えば、スイスのチューリッヒ〜ミラノ〜ベニス〜オーストリアのザルツブルグとなります。今回は1等車を予約してあるので問題ありませんが、初めてユーレイルパス(もちろん2等車で自由席)でベニスへ行った時に、周りのアメリカ人がパニックになって騒ぎだしたのが懐かしい想い出です。結論から言うと、ベニス(イタリア名はベネチア)駅は二つあって、Venezia Mestre と Venezia Santa Lucia の二つがあり、前者で降りると手前で降ろされてしまいます。いわゆるベニスは小さな島で終点のサンタ・ルチア駅です。2等の自由席だと一部は切り離されてメストレ駅で降ろされてしまうのです。私もアメリカ人のおかげで無事に車両を移動してすんなりと目的地へ着けました。お金を払うミネラルウォーターの代わりに、水道水をタダで頼む時は「tap(ping) water」と言えばいいと、知り合ったアメリカ人が教えてくれたのもここベニスでした。硬水(カルシウム分が多いだけで無菌)で少量なら飲んでも下痢しません。でも、硬水に慣れない日本人が沢山飲むと下痢することもあり、旅行者下痢症の原因の一つです。
今回の学会は、第5回ヨーロッパ旅行医学会と言って、今の私にとってビジネスに直接結びつく大事な学会です。会長は、イタリア人のパッシーニ先生で、毎年日本旅行医学会に招待されているので、顔見知りです。彼は、以前はローマにいましたが、今はベニスの南で同じくアドリア海に面したリミニの温泉でタラッソセラピーの医者をしているようです。WHOとも関係しており、政治的にも大物のようです。
2年前のフィレンツェの学会場も旧要塞ですごかったですが、今回も学会場にまずびっくり。スクォーラ・グランデ・サン・ジョヴァンニ・エヴァンジェリスタと舌を噛みそうな名前の場所で、scuola(スクォーラ)は school の意味もありますが、キリスト教信者の集会所で、ここも普段は観光地らしくガイドブックに書かれているくらいです。壁には宗教画が飾ってあり、天井にも宗教画が描かれており、前方にはキリスト像もあります。イタリアの学会では、いつもロケーションに圧倒されます。こういうセッティングで英語で演題を聞いていると不思議な気分がします。
初めての海外での旅行医学会ですが、日本の学会と同じく幅広い領域を網羅しています。元々の分野である感染症は今でも重要で、エイズからA,B,C型肝炎、鳥インフルエンザ、マラリア、コレラ、デング熱等々、日本では余り馴染みのない感染症の話題が沢山あります。WHOと学会自体が提携してるようで、WHOの関係者も多くいましたし、アメリカのアトランタにあるCDC(Centers for Disease Control and Prevention: 米国立疾病予防対策センターの関係者もいました。津波、地震などの災害医学やキリマンジャロ登山などの探検医学もあり、移民の健康問題もあり、ここヨーロッパとアフリカとの密接な関係も感じます。
各国の旅行医学の発表も興味あり、個人的には年末に行ったばかりのハンガリーの旅行医学が興味ありました。寒いのに山がなくスキー場が国内にないのに多くのスキーヤーがいることや、海もないのに多くのダイバーがいるという話でした。2004年にEUには加盟したものの通貨の統合はまだです。社会主義から西側諸国に加盟したせいかどうか性産業も盛んだそうです。どうりで、ブダペストのホテルでもらった市内地図の広告に「エスコート」サービスの宣伝があった理由が納得できました。残念ながら、私は子連れでした!
ロングフライト血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)やそれと関係する心・血管系の予防の話しや糖尿病患者、特にインスリン注射患者の旅行に関する話題など、実用的な話題も豊富です。そして、救急医療が現在では一番重要で、日本でも強調されるように、旅先での脳卒中、心筋梗塞が旅行中の死因のトップです。従って、日本の学会では中高年の旅行者には英文の診断書を携帯するように啓蒙し、少しでも体調の変化、異変を感じたらすぐに現地で救急車を呼ぶように指導しています。一般に心配されている言葉の壁はこれでかなり克服できますし、医者が知りたいのは、よく誤解されているようにどのような痛みかを説明されることではなく、既往歴やアレルギー歴です。アメリカなどでは、訴訟の心配があるので、アレルギー歴などが分からないとそれだけで診療拒否されます。
一番面白かったのは、アメリカのスポーツ医学の権威の心血管系の健康のための運動の話しで、結論は単純で万歩計を使ったりして一日8千歩を目標に早歩きをすれば、明らかに寿命が延びますが、アメリカ社会がいかに「低運動環境」にあるかを写真を見せ皮肉っていました。犬の散歩にトレッドミルで犬だけを走らせ、リードで繋いで散歩をするのに自分は車で歩きもしない。また、フィットネスセンターの入り口にわざわざ立派なエスカレーターがついているなどです。
ポスターセッションからは1題だけ紹介します。アメリカの Godfrey から貴重な問題提起がありました。「機内にお医者さんがいましたら、客室乗務員にご連絡下さい」。飛行機が普及して国際化の進む現在、多くの医師が直面し、躊躇する問題だと思われます。聴診器もない、心電図もとれないのにどんな患者さんなのか?どの位の時間拘束されるのか?パイロットに聞かれた時に、飛行を続けていいのかそれとも近くの空港へ緊急着陸をすべきかの判断を委ねられるのか?自分の専門領域で対処できるのか?機内にはどんな医療機器や薬があるのか?「報酬」は期待できるのか?医師の良心は?道徳的、倫理的問題と同時に無国籍の上空での法的責任問題は?着陸した後もいつまで医師として責任を持たされるのか?多くの疑問がわいてきます。上記の理由により、事実として多くの医師が名乗りでないのです。私の個人的な意見としては、そろそろ学会が航空会社等と正式に話し合う時期が来たと思います。いつまでも医師の良心に依存する業界は無責任だと思いますし、病人にとっても不幸です。
日本からの唯一の発表は、日本旅行医学会専務理事の篠塚先生が日本の学会の実情を発表しました。今回私としては、はるばるベニスまでやってきたかいがあり、この実質日本の学会の創始者の篠塚先生と個人的に親しくなるチャンスを得たことです。2日目の夜は、他の2名の日本人(と言っても、一人はアメリカ・ユタ大学の麻酔科の教授)と計4人で食事をしました。食事の後、9時に学会場に戻り、学会主催のコンサートへ行きました。あのスクォーラの会場で、カーニバルで有名な仮面をつけた5人位の演奏と仮面をつけた男女2名のダンスです。場所といい、目の前で見られることといい、最高のコンサートでした。ここベニスでは、あちこちの教会でこのようなコンサートをやっているようでした。
半日だけ時間を作って(学会をさぼって)、懐かしいサンマルコ広場へ行きました。ベニスの商人で有名な場所で、ベニス最大の観光地でもあります。1720年オープンで、チャールズ・ディッケンズらに愛されたと言うカフェ・フローリアンでウィンナー・コーヒーを飲み、ベニスの島が一望できる鐘楼へエレベータで上りました。ここも思い出があり、横須賀の米海軍病院での研修で知り合った北大の先生にバッタリ会ったことがあります。世界は狭いと思ったものでした。偶然とは恐ろしく、日本国内でも北海道と九州で会うこともないのにと感心したものです。
今回久しぶりにベニスへ行って見つけたうれしい変化は、ここにもカジノができていることです。市営のようです。ただ、ラスベガスに何回も行っている私としてはその小ささにはビックリしました。私の好きなブラックジャックのテーブルがたった二つしか開いてないのです。でも、しっかりイタリア語の勉強ができました。15から21までの数字に強くなります。英語にもなっている「Mamma Mia!」(直訳すれば Oh, My Mother! ですが、Oh, My God! の意味)も何回も使ってみました。大したことはないですが、100ユーロ程勝ちました。
ただ、世界中のカジノでも見たことないルールで、7人しか並べないので、ぶら下がる感じでそれぞれに後2人まで賭けることができるのです。もちろん、座って賭けている先頭の人がもう一枚カードを引くかどうかを決定する権利があり、その他の人はお任せです。最初は責任を感じて、やりにくく調子が出ませんでしたが、しばらくするとこのルールにも慣れてきました。適応力だけは自信があります。ただ、ディーラーのレベルは高くありません。引いたカードを頻回にひっくり返したりするミスがあります。やはりラスベガスが一番です。ラスベガスではこんなミスは皆無です。ここにもドレッシーな美女3人はいましたが、無料のドリンクサービスはありませんでした。
個人的には、カジノ、特にブラックジャック大好きで、ギャンブル性が強く問題になっているらしいパチンコよりはるかに健全だと思います。ここイタリアでも、最低かけ金は5ユーロ(約700円)ですし、ラスベガスでさえ、5ドル(約600円)です。ブラックジャックであれば1万円ちょっともあれば買っても負けても数時間は最低楽しめます。早く、石原知事が頑張って、東京のお台場にカジノができるのを期待しています。
学会の休憩時間には、協賛企業のネスレから派遣された若い女性たちが注いでくれるエスプレッソが飲めます。早速、相手をしてもらって初級イタリア語会話の練習台になってもらいます。もちろん、彼女等は英語ができますので色々な話ができます。3ヶ月前にナポリに行ってピザがおいしかったと言ったら、彼女らもナポリのピザは特別だと認めていました。日本の漫画は有名ですが、一人が「うる星やつら」を知っていると言ったので、それではハローキティを知っているかと聞いたらもちろん知っていました。
最終日は大失敗をしました。お互いに予定はないので、篠塚先生と二人だけでもう一晩食事をしながら色々話しをするつもりで楽しみにしていました。午前中の部が終わり、午後はどうでもいいマラリアだけのセッション(2時から3時半まで)なので、ゆっくり昼飯を食べに出ました。珍しい蟹を丸ごと頼んだのが失敗でした。食べるのに時間がかかり、2時半頃会場に戻りました。ところが、様子が変なのです。会場が閉鎖されているのです。かろうじて、入り口近くの学会参加者らしき人が、予定が変更されて午後の部を続けてやりもう学会は終わったと教えてくれました。ガーン!学会はともかく、篠塚先生とはぐれてしまいました。ホテル名は聞いてないし、携帯電話の番号も聞いてないし、いくら狭い島のベニスでも探しようがありません。食意地がはっているのが仇となりました。仕方がないので、この夜は一人で食事をして、またカジノへ行きました。
夜(26日日曜日)、ホテルへ戻り1階(日本で2階)なので、普通なら階段を歩いて上るのに、気まぐれでエレベータに乗りました。これが幸いしました。張り紙があって、明日から solar time なので、1時間早くなると書いています。夏時間は、アメリカ英語では daylight-saving time(省エネ時間)と言いますが、すぐにピンときました。危うく明日の朝の列車に乗り遅れるところでした。アメリカでは、例えば東部夏時間を EDT(Eastern Daylight-saving Time)と略し、山岳標準時間を MST(Mountain Standard Time)と略します。和製英語の summer time にしろ、イタリア英語の solar time にしろ、注意しないと略語が丁度反対になります。Sは誰でも知っているサマーではなく、スタンダード(標準)時間のことで、日本語では冬時間とも訳せます。
翌朝、無事に朝早い列車に乗り、余裕を持ってミラノ中央駅へ着きました。この巨大な駅にも色々な思い出がありますが、サンマルコ広場と同じく、福岡の知人にこの広い駅でバッタリ会ってビックリし、地球の狭さを実感したものです。2年前は修理中だったドゥォーモ(大聖堂)へ行ってみましたが、まだ修理中でした。こちらは歴史的な建物が多く、修理にも気の遠くなるような年月がかかることが多いようです。それから、2年前と同じく飛行場への便のいいミラノ北駅へ移動し、例のトラブルのあったコインロッカーを懐かしく見に行くと、テロのせいか安全上の理由のため閉鎖中と書いていました。
予定通り、ミラノ・マルペンサ空港へ着くとアリタリアのカウンターへ。ところが、やけに人影がありません。手続きをしてくれずにどこかに電話をしています。もう終了したが、急げば間に合うと言うことで、慌てて手荷物検査を受け、スタンプを押してもらうだけの税関を通過し、10分後には搭乗口へ到着しました。日本人の空港職員にあきれた表情で、渋滞で遅れたのですかと聞かれました。幸い、食事も余っているし、手荷物だけだから間に合ったと説明してくれました。後で冷静に考えると、だんだん横着になり、税関とかも簡単なのでギリギリでも間に合うと高をくくっていたので、いくら何でも国際線に搭乗するのに、出発の45分前に空港に着いたのは遅過ぎました。我ながら、運が強いです。でも、結果オーライで無事に飛行機に乗れました。夏時間のことも気まぐれでエレベータに乗らなかったら気がつかなかったはずです。
お陰で、前もって予約していた窓際の席はキャンセルでしたが、席は空いていたので離陸の時は窓際近くの席へ勝手に移動し、3ヶ月前と同じく、眼下のアルプス山脈の雪景色を楽しみました。
*今回の紀行文は少し専門的過ぎたかもしれません。これを読んで、少しでも「旅行医学」に興味を持った人は是非私のウェブサイトをご覧下さい。
http://www.kanoya-travelmedica.com旅行好きを仕事にするため、「空飛ぶドクター」を目指しています。そんな私が「海外旅行時の健康管理」に関する本を4月21日から出しました。悠飛社(03-5327-6052)坂本泰樹。「機内にお医者さんはいませんか?」空飛ぶドクターの海外旅行と健康管理。